あなたが新しく会社を設立したとします。「顧問契約と一緒に記帳代行もお願いできる税理士を探してるんだけど、高いなあ・・・」と思ってインターネットで調べていると「記帳代行」というサービスを提供しているサイトがたくさん見つかりました。費用も月額980円からという会社もあり、「おお!こんな安くやってくれるところがあるんだ。記帳代行会社にお願いしてみようかな」と思い一度連絡を取ってみることにしました。
記帳代行業者は法人から個人まで星の数ほどあり、サービス内容も料金設定もそれぞれ異なります。それだけたくさんの業者の中から、どこを見て記帳代行会社を決めればいいのでしょうか?
今回は記帳代行業者を選ぶ際に絶対にチェックしておくべきポイントを判りやすく説明していきたいと思います。
【POINT1】提携している税理士がいるか。
決算申告手続は税理士か納税者本人(あなた)しか出来ません。 税理士資格の無い記帳代行会社は税務関係の手続ができませんので、この点は必ず覚えておいてください。
記帳代行会社が決算申告まで請け負うというケースで、提携税理士がいない場合、又は名目だけの提携税理士という場合は以下のようなリスクがありますので十分注意して下さい。
税理士資格が無い場合は無償であっても、税務代理(申告)や税務税務書類の作成は出来ません。
業者が作成した資料にあなたが自署捺印した場合、書類を作成した業者はもちろん違法ですが、申告内容にミスがあっても、申告内容に関してはあなたの責任になる可能性があります。
提携といっても実際には税理士の名前を貸しているだけの、いわゆる「名義貸し」。申告書類は業者が作って、税理士が署名押印(又は電子申告)のみ行うようなケースです。これも違法となります。
「提携税理士といっても、もしかして名前だけじゃないかな?」と不安に思われた場合は、決算申告をする税理士に直接会って話をさせてもらえるかを聞いてみるのもよいかもしれません。
提携税理士がいない場合は、あなたが別途税理士を探して契約する必要があります。その場合に注意したいのが、申告内容にミスがあったというケースです。
税理士側は「記帳された内容を見て申告書をつくったんだから、記帳の正誤の責任は持てませんよ」となりますし、記帳代行業者は「うちは記帳をするだけですから、申告内容の責任は持てませんよ」となって、結局あなたが泣き寝入りとなる危険があります。
記帳代行業者と提携税理士の間でのコミュニケーションがとれていれば、こういったトラブルも起こらないと思いますので、しっかりとした提携税理士のある記帳代行業者を選ばれることをおすすめします。
【PONIT2】コンプライアンスを徹底しているか。
コンプライアンスとは
コンプライアンスとは「企業が法律や企業倫理を遵守すること」を言います。
つまり、「違法な行為や違法でなくても反道徳的行為・反倫理的的行為、社内規定に反するような行為をしない」といった広い範囲で公正・公平に業務を遂行することを指します。
守秘義務
士業の代行業者の場合
税理士や行政書士のような職務の特性上秘密の保持が必要とされる職業は、「職務上知った秘密を守るべき義務」が法律(税理士法、行政書士法など)で定められています。この法律で定められた義務を「守秘義務」といいます。
ですから税理士や行政書士は「秘密保持契約を結んでいませんから」という理由で職務上知った秘密を漏らしたことに対して逃げることは出来ません。(もちろん守秘義務があっても別途、契約書に秘密保持義務を明記されることをおすすめします。)
行政書士法(秘密を守る義務)
第12条
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなった後も、また同様とする。第22条
第12条(秘密を守る義務)の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
2前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
法律で守秘義務が定められていない業者の場合
たとえ一人社長の会社であっても、経理情報は会社にとって重要機密事項ですから、契約書に秘密保持義務を明記されるのがよいでしょう。
特に記帳代行業者が記帳作業を下請けや孫請けに出すようなケースは秘密保持契約を締結しておく必要があります。
法律遵守
記帳は決算申告との関係が深いため、税理士法に抵触するような行為を記帳代行業者が犯すケースがあります。
例えば、税理士資格のない記帳代行業者が決算申告書類を作成して、あなたに「申告をするので、署名押印をして下さい」というのは税理士法に違反します。
また、税理士資格のない記帳代行業者が自身で決算申告書を作成して税理士が署名押印するのも「名義貸し」となり税理士法違反となります。ここまでは依頼する側からは判断が出来ませんが、「決算申告書は税理士さんが作成されるんですよね?」という程度の確認はしておいてもいいかもしれません。
情報管理
「業者で保管してもらっていた領収書を紛失された」「領収書を郵送したのに届いていない言われた」というケースもあります。こういった事故は100%無くすことは難しいと思うのですが、予防するための対策をどれだけとっているかでリスクは大きく低減されます。
「もしこちらから郵送した領収書が届いていないとなった場合、どうなるんですか?」という具合にトラブルが発生した場合の対処法を先に確認しておくことも重要です。
【POINT3】コミュニケーションが密にとれるか。
記帳代行会社によっては、領収書などを郵送するだけで、実際に会う事が出来ないという会社もあります。特に価格を安く大量に情報処理をすることを強みにされている業者の場合は、実際に会ってゆっくり話をするというのは難しいかもしれません。
とにかく価格重視という場合は、「コミュニケーション」よりも「金額」に重点をおいて選ばれるのもいいでしょう。
ただ、あなたの会社の重要な情報を預けるのですから、出来るだけ記帳代行業者に実際に会って信頼出来る相手かどうかを確かめるのがよいかと思います。
【POINT4】価格設定が判りやすいか。
設定金額を見て「安い!」と思って契約してみたら、細かいオプションがたくさんあって、結局他のところと同じか高くなってしまった・・・という事もあります。以下に代表的なオプション例を挙げてみます。
創業1期目限定
「安い!」と思って喜んで契約した後に、「2期目以降はこちらの価格になります。」と提示された金額が他のところよりも高くなっている、というケースもあります。1期目だけ安くても2期目以降が割高になってしまうのであれば、結果として「割高な契約をしてしまった」ということになってしまいます。
明確な金額が書かれておらず、「2期目以降は1期目の状況を見てから正式にお見積させて頂きます」というケースもあります。その場合は、ご契約される前に2期目以降の料金設定の条件を確認されるのがよいでしょう。
「○○円~」という表現
細かい条件が書かれておらず、「1,980円~」のような表記はご契約前に自分の会社で契約した場合の料金はもちろん、今後商売が大きくなった場合を考えて、料金設定の条件の確認が必要です。
「~」と最低料金の条件は非常に狭い範囲で設定されていることもありますので、十分気をつけて下さい。
記帳代金件数
例えば、「記帳代行1,980円~」というサービスがあったとします。「これは、安い!」と思って細かいところを見ずに即契約したところ、1,980円は月の仕訳数が30の場合の設定であって、あなたの会社は月の仕訳数が100件あり、100の場合は月額15,000円になったというケースもあります。
仕訳件数で価格設定を分けている場合は、必ずあなたの会社の仕訳数が月にどれくらいあるかを確認してから、記帳代行料金を確認して下さい。
現金出納帳の作成
現金出納帳とは、日々の現金の入金・出金を発生順に記録するための帳簿です。現金出納帳の作成は基本的には記帳代行業務に含まれていない事が多く、作成を依頼する場合は別途費用がかかることになります。(現金出納帳作成込みで料金設定されている場合もあります)
もし記帳代行を依頼する業者のホームページ等に現金出納帳に関して何も書かれていない場合は、作成費込みなのか、別料金の場合はいくらかかるのか、を確認されると良いでしょう。
【POINT5】契約解除の条件が明示されているか。
記帳代行業者を利用するメリットの一つに「簡単に業者を変更できる」という点があります。顧問税理士を変更するとなると事務作業もさることながら、精神的にも大変な負担がかかります。その点、記帳代行業者の変更は比較的簡単に出来ます。(詳しくは『記帳代行を税理士ではなく代行業者に依頼するメリットと注意点』をご参照下さい。)
記帳代行を始めるにあたって、システムの設定や必要な設備の支給などがある場合は1年間は契約解除が出来ないという条件がある場合もあります。
契約解除に条件がついている場合、その条件は妥当なものなのか、あなた自身で判断されると良いと思います。
まとめ
記帳代行業者を選ぶにあたっては、提携税理士がいるか、コンプライアンスを重視する業者か、コミュニケーションが密にとれるか、料金が明確か、契約解除の条件が明示されているか、といった点をチェックして選びましょう。
経理情報はあなたの会社にとって重要な機密事項です。そんな大事な情報を預けるのですから、じっくりと信頼出来る業者を探されるのが良いと思います。
記帳代行業者を選ぶポイントを参考にして頂き、是非、お互い良好な関係が築けるような業者を見つけて下さい。