Aさんはサラリーマン生活を送りながら「いつかは独立しよう」と長い間考えて、ついに独立を決意!かねてから一緒に独立しようと言っていた友人Bさんも会社を辞める決心をして、一緒に介護関連のビジネスをすることにしました。
調べてみると介護事業所を立ち上げて介護報酬を得るためには、許認可を受けなければならず、その要件として「法人格を有する事」、つまり会社でなければ許認可が受けられないということが判りました。
「株式会社、合同会社、NPO法人・・・。株式会社以外はあまり聞いた事がないけど、NPO法人は何か公共のためになることをしているイメージだな。この合同会社っていうのは聞いた事がないな?」
許認可要件として「法人格(会社であること)」が必要とされているものは、介護事業以外にも建設業などがあります。コスト面でメリットのある「合同会社」は中小企業を中心に急増していますが、そのメリットとデメリットをよく理解しておかないと、設立後に大変な後悔をしてしまう可能性もあるのです。
今回は合同会社のメリットとデメリットをご紹介し、合同会社の多い業種の事例をあげて、「合同会社」について、以下判りやすくご説明していきたいと思います。
合同会社とは
合同会社とは平成18年(2006年)5月1日施行の会社法により新しく設けられた会社形態です。新たに施行された会社法では、旧来の株式会社と有限会社を統合して「株式会社」とし、合名会社・合資会社および新設の合同会社を「持分会社」という2種類の会社類型になりました。合同会社は持分会社の中の一つの形態です。
設立費用が安い点や運営の自由度が高いといった理由から、制度を開始した平成18年は3392社、19年は6076社、23年では9130社が設立され、急激に増加している会社形態です。
合同会社のメリット
設立費用
株式会社の場合、登録免許税が15万円かかりますが、合同会社の場合は6万円ですみます。また、合同会社の定款は公証人の認証が不要なため、手続料5万円と印紙代4万円(電子認証の場合は不要)がかかりません。
つまり株式会社設立では最低でも20万円以上かかるところが、合同会社では6万円でできることになります。
定款自治(定款の自由度)
合同会社は株式会社に比べて定款で決定できる事項が多いというメリットがあります。
自由度が高いというメリットがある反面、いろいろな事を決めておかなければならないという点にも注意しておかなければなりません。
定款の重要性に関しましては後述致します。
ランニングコスト
●役員任期がない
株式会社では取締役の任期が決まっていますが、合同会社には役員の任期はありません。役員の任期が終わり変更する場合は役員登記の変更で1万円の収入印紙が必要です。定款変更などの手続を専門家に頼む場合はその費用もかかりますので、そういった費用のかからない点が合同会社のメリットと言えます。
●決算公告が不要
株式会社の場合、決算を毎年官報に掲載するか、ホームページで公開して広告する必要がありますが、合同会社はこの決算公告が不要です。官報に掲載する場合は安くても6万円近くかかりますので、その費用がかからないというだけでも、コスト面でのメリットがあります。
●機関設置が不要
株主総会などの機関が不要なので決議が簡潔迅速にできます。
有限責任
個人事業主や合名会社、合資会社(無限責任社員のみ)は「無限責任」といって、例えば会社が倒産した場合、会社が負債を返済出来ない分に関しては個人の財産をもち出してでも返済する責任を負います。
それに対して、「有限責任」は「自分の出資額の範囲内で責任を負う」ことを言います。つまり上の例でのBさんであれば、合同会社が倒産した場合、出資した100万円は返ってきませんが、会社の負債に対しては責任を負わなくて良いのです。(株式会社も同じく有限責任となります。)
合同会社のデメリット
社長の名称
合同会社は取締役という機関がないので「代表取締役」という役職は存在しません。株式会社の「代表取締役」に相当する役職名は「代表社員」です。
名刺の肩書も「代表社員」としなければならないので、合同会社の組織をあまり知らない相手が見た場合に「代表社員=社長」と気がつかない場合があります。
知名度が低い
合同会社という形態はまだまだ一般的には知られていないので、株式会社に比べて「小さい会社」というイメージを持たれることがあるかもしれません。
実際には西友やApple Japanのような大手企業で合同会社の形態をとっているところもありますので、今後は「株式会社に比べて小さい」というようなイメージもなくなっていくのかもしれません。
社員の意見の対立
合同会社は以下の「合同会社の注意点」で後述しますように、出資額に関係無く、社員一人一人が議決権をもっています。
この点はある側面から見るとメリットでもあるのですが、対立がおきた場合、大きなデメリットになります。
例えば2人で共同経営の場合、決めなければいけない事項が決められずに業務がストップしてしまうというような危険もあります。詳しくは以下の合同会社の注意点の「一人一議決」でご説明したいと思います。
合同会社の注意点
合同会社は持ち分会社といって、「相互に人的信頼関係を有し日常的に会合できる少人数の者が出資して共同で事業を営むことを予定した会社類型」になります。株式会社のように取締役や執行役といった機関がなく、社員全員が業務執行に携わるというように、社員一人一人の権限が非常に強い点に注意しなければなりません。
一人一議決
合同会社は出資比率に関係無く一人一議決権を持ちます。Aさんが900万円出資してBさんが100万円の出資でも、同じ一議決権なのです。例えば定款の変更や社員(出資者)の加入なども全員の合意が必要になりますので、900万円出資したAさんが定款を変更したいと思っても、100万円しか出資していないBさんが反対すれば変更出来ないのです。
そういった意味で社員同士の方向性が同じ場合は問題無いのですが、対立が生じた場合は泥沼化してしまう危険があるのです。
但し、この一人一議決権は定款によって変更することができます。例えば定款で「出資割合に応じた議決権にする」と定めることもできるのです。
合同会社の定款の重要性
合同会社は「定款自治」といって株式会社よりも定款で決めることが出来る事項が多い、という大きな特徴があります。
上記のトラブルの原因として挙げた「一人一議決権の原則」も定款で変更することができますし、それ以外の重要事項も定款で決めることができます。
例えば、株式会社であれば、出資金額の割合によって配当金額が決まります。3000万円の配当をする場合、900万円出資のAさんは2700万円、100万円出資のBさんは300万円の配当になりますが、合同会社の場合、定款で自由に配当比率を決める事が出来ます。AさんとBさんの利益配当を50%づつと定款で決めれば、1500万円づつ配当されることになります。
一人一議決権の原則以外にもトラブルになる可能性があるのが、一人で合同会社を設立して、その一人が亡くなられた場合です。
合同会社の社員が死亡した場合、定款に定めていなければ持分は相続されません。一人ではなく何人か社員がいる場合は、亡くなられた社員の相続人が会社に対して出資した持分の「払戻請求する権利」を相続します(持ち分自体は相続されません)。
この場合、会社はそのまま存続し、相続人は会社から持分に相当する金額を受け取ります。
ところが社員が1名の場合は、持分は誰にも相続されず合同会社は解散します。旦那さんが亡くなったので、奥さんが代わりにその事業を継ごうとしても会社は解散しますので継続することは出来ません。こういった危険もあるので、自分が死んだ場合に家族に継いでもらいたい合同会社を一人で設立する場合は「相続人が持分を相続する」と決めておく必要があります。
定款による決定事項の自由度が高いということは、それだけ定款の重要性が高いとも言えます。定款は社員全員一致でしか変更ができないので、一旦もめてしまった後では変更ができないケースもあります。また、一人社長の場合、亡くなった後では変更することができません。
合同会社を設立する際には、細心の注意をもって慎重に「定款」を作成する必要があると言えます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
合同会社のメリットは設立時の費用が安いという点とランニングコストが抑えられるという点であると言えます。
運営の自由度や出資額に関わらず社員一人一人の権限が平等ということはメリットにもなり、デメリットにもなりえます。社員同士がうまくいっている時は利益配分や決定権限を自由に決められる事がメリットになりますが、反面、対立がおこった場合は重要事項が決められず泥沼化する危険もあります。
合同会社のメリットを上手く活かすためには、最初の時点で社員全員で十分話し合って、「定款」をしっかり作り込むことが重要となります。
上手くメリットを利用すれば、株式会社ではできない自由な会社運営ができるという大きなメリットもありますので、合同会社の制度を上手に活用されて、起業の際の会社の形態の候補の一つにご検討されてみてはいかがでしょうか。