起業のご相談をお受けした時に「個人事業主と法人のどちらで始めた方がいいのでしょうか?個人事業主と法人ってどう違うんですか?」というご質問をよくいただきます。
一人社長であれば、なんとなく個人事業主も法人も変わらないような感じがしますよね。実際に違いと言っても「なんだ、細かい違いだな」と感じるような違いがたくさんあります。
しかし、いくつかの違いは非常に大きな違いですので、その大きな違いを理解して、どちらで起業するかを判断されると良いと思います。
個人事業主と法人の細かな違い
個人事業主と法人ではいくつか違いがありますので、まず最初にどういった違いがあるのかを見ていきたいと思います。
設立方法の違い
個人事業主は税務所に開業届けを出せば始められますが、法人は定款を作成したり法務局へ登記したりといった手間と費用がかかります。
法人には主に株式会社と合同会社がありますが、合同会社であれば比較的手続きも簡単に設立することができます。
(合同会社に関しては「合同会社のメリットとデメリット」をご参照下さい)
社会的信用度
法人にした方が社会的信用度が高いことや人材を集めやすいということも言われます。
しかし、私の経験から言いますと、一人社長の場合は、こういった点に関しては、個人事業主とたいして変わらないように思うことも多々あります。
ただし、B to Bのビジネスの場合は、取引先の企業から「個人の銀行口座に振り込むのは避けたいので、できれば法人になって下さい」という要請があるケースはあります。
当事務所に法人設立の手続を依頼頂くお客様も、取引先から法人成りを要請されたというところはあります。
ここに書きました小さな違いは、「個人事業主で事業を行うか、法人で事業を行うか」を決定付ける程の違いではないと私は考えています。
私としましては、以下の違いこそが、個人事業主と法人のどちらにするかを決める大きな要素になるのではないかと思います。
個人事業主と法人の大きな違い
個人事業主の場合は、比較的簡単に税務申告が出来ますが、法人の場合は、法人税法に則って税務申告をしなければいけないので、税理士のような専門家に頼まなければ税務申告をすることが難しいと言えます。
つまり、税務申告で法人の方が費用がかかると言えます。
個人事業主の場合は、会計ソフトを使って自分で確定申告することも十分可能です。
しかし、法人になると、一人社長であっても給与計算、社会保険、人を雇えば残業代などの給与計算やそれにともなう社会保険額の計算など、会計は自分一人で行うことは困難です。
その上、決算は個人事業主とは違い、「売上-経費=利益」で税金を計算するような単純なものではなく、この利益に対して、法人税法で定める損金、益金を計算して申告しなければなりません。
こういった作業も自分一人で行うことは困難ですので、税理士に依頼することになります。
この会計、税務申告、労務管理などの作業は法人になることで、アウトソーシングをしなければ出来ないケースも多く、その分の費用がかかることになります。
個人事業主と法人の会計や税務申告の違いに関しては、『法人成りした個人事業主が「え?何これ!」と感じる法人経理の難しいポイント』で詳しく説明しておりますので、よろしければご参照下さい。
有限責任と無限責任の違い
実は、私はこの「無限責任と有限責任の違い」こそが個人事業主と法人の最も大きな違いだと思っています。(一部無限責任の法人もあります)
法人というのは有限責任といって、会社で何か損害賠償を負うようなことがあったり、大きな借金をかかえたりして、倒産となった場合、たとえ一人社長でも個人の財産を処分して会社の債務を返済しなければいけないといった責任を負うことはありません。(会社が借金をする時に社長が個人保証人になっているようなケースには、当然その借金の責任を負います)
個人事業主の場合は、個人の財産を処分してでも、事業の負債に対して責任を負います。
「法人にしたって、借金をする時は、通常、社長が保証人になって社長個人の財産を担保にいれるから、同じですよ」と言う方もいらっしゃいますが、そんなことは無いと思います。事業をしていく上で、負債をかかえるのは銀行に借り入れをする時ばかりとは限りません。
予測もしなかった事で負債をかかえてしまう事も十分あり得ます。
事業をする上で、トラブルになって負債をかかえる可能性がない又は非常に低いような種類の事業であれば、個人事業主でされるのも良いと思います。
この点はご自身で自分の事業はどのような種類のものなのかを、しっかり考えて、個人事業主で行うか、法人で行うかを決められるのが良いと思います。
節税対策の違い
法人の場合は社長やその家族に役員報酬や給料を支払って経費とすることが出来ます。
また、給与所得控除というみなし経費が認められているので、この点でも節税効果があると言えます。
社長の生命保険に関しましても、一部は経費となる保険があります。
こういった節税対策が出来るという点では法人にメリットがあると言えます。
法人税の場合、資本金1億円以下の法人であれば、年間所得800万円以下の部分が15%、年間所得800万円超の部分が25.5%となっています。
一方個人事業主の場合、細かく累進で課税率が設定されていますので、売上や利益が増えてくると法人にした方がメリットが出る場合があります。
税金面で考えた場合、一般的には売上金額1000万円とか所得金額800万円くらいが法人成りを考えるタイミングと言われています。
課税される所得金額
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税率
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控除額
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195万円以下
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5%
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0円
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195万円を超え330万円以下
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10%
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97,500円
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330万円を超え695万円以下
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20%
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427,500円
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695万円を超え900万円以下
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23%
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636,000円
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900万円を超え1,800万円以下
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33%
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1,536,000円
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1,800万円を超え4,000万円以下
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40%
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2,796,000円
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4,000万円超
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45%
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4,796,000円
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
お読み頂くと、個人事業主と法人のどちらがいいのか、と言うのは、100対0でどちらが良い、という事は言えないということがお判り頂けたかと思います。
ただ、最初一回だけかかる設立費用の違いなどは、そんなに気にする必要は無いと思います。
個人事業主か法人かを迷われている方のほとんどは、法人にしても一人社長又はご家族での経営という方だと思います。
その場合は、「有限責任にしたいか」「節税効果があるか」「会計、税務、社会保険などが複雑になっても大丈夫か」という3点は非常に重要になってきます。
これ以外の細かい点はあるのですが、個人事業主と法人のどちらを選ぶかを考える際には、この3点をまず最初に基本に置いて考えられるのが良いのではないかと思います。