
はじめに
日々、膨大な量の書面、タイトなスケジュール、そして常に求められる正確性。
現代の弁護士の先生方が直面する業務上のプレッシャーは、計り知れないものがあるかと存じます。
山積みの事件記録に目を通し、関連判例をリサーチし、依頼者のために最善の準備を整える。
こうした業務に追われる中で、「もっと効率的に、もっと本質的な業務に集中できる時間があれば」と感じることは少なくないでしょう。
そのような先生方にこそ、ぜひ知っていただきたいのが、Googleが提供するAIツール「NotebookLM」です。
「また新しいAIツールか」と思われるかもしれません。
しかし、NotebookLMは、ChatGPTのような一般的な生成AIとは一線を画す、根本的に異なる設計思想で作られています。
その最大の特徴は、「あなたがアップロードした資料(ソース)だけを情報源とする」という点にあります。
これは、弁護士業務にとって革命的な意味を持ちます。
不確かな情報源から回答を生成するリスク(ハルシネーション)を限りなくゼロに近づけ、すべての回答に明確な根拠(引用元)を提示してくれる。
つまり、弁護士業務に不可欠な「正確性」と「検証可能性」を担保した、まさに「あなた専用のAIアシスタント」として機能するのです。
この記事では、NotebookLMの基本的な仕組みから、具体的な法律業務での活用方法、そして先生方が最も懸念されるであろうセキュリティの問題まで、専門家の視点から、やさしく、そして徹底的に解説していきます。
この記事を読み終える頃には、先生方の業務を劇的に効率化する、信頼できるパートナーとしてのNotebookLMの可能性を、きっとご理解いただけることでしょう。
NotebookLMとは?

NotebookLMは、Googleの研究開発部門であるGoogle Labsが開発した、AIを活用したリサーチおよびノート作成ツールです。
このツールの最大の特徴であり、他のAIツールと一線を画す点は、ユーザーがアップロードした特定の資料(ソース)の範囲内でのみ動作する「グラウンデッド(接地)AI」であるという点です。
一般的な生成AIがインターネット上の膨大な、しかし玉石混交の情報を基に回答を生成するのに対し、NotebookLMは先生が提供したPDF、Googleドキュメント、ウェブサイト、YouTube動画といった資料だけを知識源とします。
一般的なAI、例えばChatGPTは、インターネット上の膨大な情報を事前に学習しており、その広範な知識を基に回答を「生成」します。
これは、一般的な質問に答えたり、創造的な文章を作成したりするのには非常に便利です。
しかし、専門性が高く、事実の正確性が絶対的に求められる法律業務においては、時として不正確な情報や、存在しない判例を「もっともらしく」作り出してしまう「ハルシネーション(幻覚)」という重大なリスクを抱えています。
一方で、NotebookLMの知識は、あなたがその都度作成する「ノートブック」と呼ばれる作業スペースにアップロードした資料に厳密に限定されます。
これにより、AIが根拠のない情報を生成する「ハルシネーション」のリスクを劇的に低減させ、提供された情報に忠実な回答を得ることが可能になります。
「ソースに基づくだけという仕組み」が重要な理由
この「ソースに基づくだけ」という仕組みが、弁護士業務に計り知れないメリットがあります。
圧倒的な正確性と検証可能性
法律実務において、根拠のない情報は無価値であるだけでなく、有害ですらあります。
NotebookLMは、この問題を根本的に解決します。
AIが生み出す全ての回答には、どの資料のどの部分を根拠にしているかを示す引用番号([①]など)が付与されます。
この番号をクリックすれば、瞬時に元の資料の該当箇所にジャンプできるため、先生方は常に情報の正しさを自分の目で確認できます。
これにより、AIの回答を鵜呑みにするのではなく、あくまで「優秀なアシスタントからの報告」として、最終的な判断は先生方が下す、という理想的な協業関係を築くことができます。
「分かりません」と答える誠実さ
NotebookLMのもう一つの美点は、その「誠実さ」にあります。
アップロードされた資料の中に回答の根拠となる情報が存在しない場合、AIは「ソースには関連情報が見つかりませんでした」と正直に答えます。
これは、知ったかぶりをして誤った情報を提示するリスクを回避する上で、極めて重要な機能です。
予測可能で信頼性の高いこの挙動こそ、高い倫理性が求められる法律専門家が安心して使えるAIの条件と言えるでしょう。
法律業務に必要なのは、ゼロから何かを「創造」するAIではありません。
むしろ、既にある膨大な事件記録、証拠、法令、判例といった情報を、いかに速く、正確に「分析」できるか、という能力です。
NotebookLMは、まさにこの「分析」に特化したツールなのです。
一般的なAIが「クリエイティブな壁打ち相手」だとすれば、NotebookLMは「先生が選んだ資料だけを完璧に記憶し、分析する超有能なパラリーガル」と言えるでしょう。
この根本的な設計思想の違いが、NotebookLMを弁護士業務にとって、他に類を見ないほど適合性の高いツールにしているのです。
「NotebookLM」と「汎用AI(ChatGPTなど)」の比較
「NotebookLM」と「汎用AI(ChatGPTなど)」の違いをご理解いただくために、両者の特徴を比較表にまとめました。
業務の目的に応じて、最適なツールを使い分けることが重要です。
特徴 | NotebookLM | 汎用AI (例: ChatGPT) |
情報源 | あなたがアップロードした資料のみ (最大50件/ノート) | インターネット上の膨大な事前学習データ |
正確性・事実性 | 極めて高い。ソース内の情報に限定され、引用元を明示 | 「ハルシネーション」(事実の捏造)のリスクがある |
機密保持 | Googleは学習に利用しないと明言。機密情報も扱いやすい | 入力データがモデルの学習に使われる可能性があり、注意が必要 |
得意な業務 | 事件記録の分析、判例リサーチ、契約書レビュー、所内ナレッジ活用 | ブログ記事の草案作成、一般的な法律知識の質問、ブレインストーミング |
弱点 | ソースにない情報は回答不可。創造的なアイデア出しは不得意 | 専門的・機密性の高い情報の正確な分析は不得意 |
NotebookLMの基本的な使い方
NotebookLMの魅力は、機能だけでなく、驚くほど簡単に始められる点にもあります。
ここでは、先生方がすぐに使い始められるよう、基本的な手順を分かりやすく解説します。
アクセスとログイン
まずは、ウェブブラウザで公式サイト notebooklm.google.com にアクセスします。
特別なソフトウェアのインストールは不要です。
普段お使いのGoogleアカウントでログインするだけで、すぐに利用を開始できます。
また、スマートフォンからもブラウザ経由でアクセスできるため、外出先での確認も手軽です。
ノートブックの作成
ログインすると、ホーム画面が表示されます。
ここで「新しいノートブック」をクリックしましょう。
この「ノートブック」が、一つの案件やクライアント、特定のリサーチテーマに関する情報をまとめるための専用の作業スペースとなります。
例えば、「A社 損害賠償請求事件」や「労働契約法関連リサーチ」といった名前を付けて管理すると良いでしょう。
ソースのアップロード
ノートブックを作成したら、次はそのノートブックの「知識」となる資料(ソース)をアップロードします。
画面左側の「ソース」欄から、様々な形式の資料を追加できます。
- PDF: 契約書、判決文、準備書面、証拠資料など、弁護士業務で扱うほとんどの書面に対応できます。
- Googleドキュメント & スライド: 所内で作成中の書面のドラフトや、打ち合わせのメモなどを直接読み込ませることができます。
- ウェブサイトのURL: e-Gov法令検索や裁判所の判例検索ページ、専門家による解説記事などのURLを貼り付けるだけで、そのウェブページの内容をソースとして追加できます。
- コピーしたテキスト: クライアントからのメール本文や、他のアプリケーションからコピーした文章などを直接貼り付けてソースにすることも可能です。
- 音声ファイル: 会議やクライアントとの面談の録音データ(MP3など)をアップロードすると、AIが自動で文字起こしを行い、そのテキストをソースとして活用できます。
インターフェースの紹介
ソースをアップロードすると、NotebookLMが自動的に内容の読み込みと分析を開始します。
画面は主に3つのエリアに分かれています 。
左側(ソースパネル): アップロードした資料の一覧が表示されます。ここから各資料の内容を確認したり、分析対象に含めるソースを選択(チェックボックスのオン/オフ)したりできます。
中央(チャットパネル): ここがAIとの対話のメインステージです。下の入力ボックスに質問や指示(プロンプト)を入力し、AIからの回答を受け取ります。
右側(ノートパッド): AIとの対話の中で得られた重要な回答や、ご自身の気づきなどを「ピン留め」して保存しておくスペースです。ここにメモした内容も、新たな情報源としてAIの分析対象に含めることができます。
特に便利なのが、ソースをアップロードすると自動で表示される「ノートブックガイド」です。
これは、AIが資料の内容を分析し、「よくある質問(FAQ)」「目次」「タイムライン」といった、分析の切り口を自動で提案してくれる機能です。
何から手をつけて良いか分からない時でも、このガイドをクリックするだけで、資料の全体像を掴むことができます。
弁護士業務でのNotebookLMの活用例(プロンプト付き)

ここからは、NotebookLMを実際の弁護士業務でどのように活用できるのか、具体的なシーンを想定して、すぐに使えるプロンプト(AIへの指示文)の例と共にご紹介します。
効果的な活用法は、一つの完璧な質問を投げることではなく、対話を重ねるように質問を連鎖させ、徐々に核心に迫っていくことです。
この「プロンプト・チェイニング」という考え方を意識することで、AIの能力を最大限に引き出すことができます。
大量の事件記録・証拠資料の瞬時に整理・分析
新規の訴訟案件を受任し、相手方から段ボール数箱分の証拠資料や陳述書が送られてきたケースを想定します。
NotebookLMを使うことで、これまで数日かかっていた初期の資料レビューを数時間に短縮できる可能性があります。
手作業での読み込みでは見落としがちな人物相関や時系列を正確に把握し、重要な争点や証拠を迅速に特定できます。
データの準備
まず、新規の訴訟案件に関するすべての資料をスキャンしてPDF化します。
そして「[事件名] - 証拠資料」という名前のノートブックを新規作成し、全てのPDFファイルをアップロードします。
時系列の整理
これらの証拠資料(PDF、メールテキスト)全体を基に、発生した出来事を時系列で整理し、各出来事の根拠となる資料名とページ番号を引用形式で示してください。
この指示一つで、事件の全体像を時系列で俯瞰できる年表が自動生成されます。
登場人物の整理
この事件の主要な登場人物をリストアップし、それぞれの人物がどの資料で特に重要な発言をしているか、その内容を要約してください。
これにより、誰がキーパーソンなのか、その人物がどのような役割を果たしているのかを素早く把握できます。
特定の争点に関する深掘り
「契約解除の通知」という点に関連する記述をすべての資料から抽出し、誰が、いつ、どのような手段で通知を行ったか、その内容と相手方の反応をまとめてください。
漠然とした全体像の把握から、具体的な争点に関する詳細な分析へと、対話を通じてスムーズに移行できます。
判例・文献リサーチの精度とスピード向上
特殊な法的論点が問題となる案件で、関連する判例や学術論文を効率的に調査したいというケースを想定します。
NotebookLMを使うことで、単純なキーワード検索では見つけられない、事案の類似性や法的構成の共通性といった「文脈」を理解したリサーチが可能になります。
AIが複数の判例を読み込んだ上で比較・分析してくれるため、リサーチの質とスピードが飛躍的に向上します。
データの準備
判例データベース等で関連しそうな判例を5〜10件、学術論文を2〜3本探し、PDFとしてダウンロードします。
これらを「[法的論点] - リサーチ」というノートブックにアップロードします。
事案の類似性比較
私がノートパッドに入力した本件の事実概要と、ソースとしてアップロードした各判例の事実関係を比較し、本件と最も類似性の高い判例を3つ挙げ、その理由を具体的に説明してください。
※事前に右側のノートパッドに本件の概要をメモしておきます
法的論点の抽出・整理
ソース内の全判例から、「信頼関係破壊の法理」がどのように判断されたか、肯定された事例と否定された事例に分け、それぞれの判断理由を要約してください。
これにより、裁判所がどのような事実を重視する傾向にあるのかを客観的に分析できます。
準備書面の骨子作成
これらの判例と学術論文を基に、本件で原告側が主張すべき法的構成の骨子を3つの主要なポイントで作成し、それぞれのポイントを裏付ける判例を引用してください。
リサーチから書面作成への橋渡しをAIに任せることで、思考をスムーズに整理できます。
複雑な契約書のレビューとリスク検知の自動化
クライアントから、取引先が提示した数十ページに及ぶ業務委託契約書のドラフトレビューを依頼されたというケースを想定します。
AIが第一次的なチェックを行うことで、リスクの高い条項、曖昧な表現、自社に不利な条件などを瞬時に洗い出せます。
これにより、先生方はより高度な法的判断や交渉戦略の立案に集中できます。
データの準備
レビュー対象の契約書ドラフト(PDF)をアップロードします。
さらに、事務所の標準的な契約書雛形や、レビュー時のチェックリスト(Googleドキュメント等)も同じノートブックにアップロードします。
チェックリストとの照合
ソースとしてアップロードした「契約書レビューチェックリスト」の各項目について、このドラフト契約書が準拠しているか、または欠落している項目がないか評価してください。
リスクの特定と修正案の提示
あなたは当社の顧問弁護士です。この契約書ドラフトを当社の立場(ライセンシー)からレビューし、特に不利、曖昧、またはリスクが高いと考えられる条項を5つ指摘してください。それぞれの条項について、なぜリスクがあるのか、そしてどのような修正案が考えられるかを具体的に提示してください。
AIに役割(ペルソナ)を与えることで、より的確な回答を引き出すことができます。
雛形との比較
このドラフト契約書と、ソースにある「弊社標準テンプレート」を比較し、内容が大きく異なる条項、またはドラフトにのみ存在する条項をリストアップしてください。
依頼者への説明資料を分かりやすく作成
訴訟の進捗や複雑な法律関係について、法律の専門家ではない依頼者に分かりやすく説明する必要があるというケースを想定します。
専門用語を多用しがちな説明を、AIが平易な言葉に翻訳してくれます。
これにより、依頼者の理解を深め、円滑なコミュニケーションを促進します。
データの準備
関連する裁判所提出書面や、相手方とのやり取り、所内のメモなどをノートブックにアップロードします。
プロンプト
これらの資料の内容を基に、法律の専門家ではない依頼者(中小企業の経営者)にも理解できるよう、現在の訴訟の進捗状況と今後の主要な争点を、専門用語を極力避けて平易な言葉で説明する報告メールの下書きを作成してください。
膨大なメールのやり取りから重要事項を抽出
契約交渉の経緯が問題となっており、当事者間で交わされた過去1年分のメールをすべて確認する必要があるというケースを想定します。
数百通に及ぶメールを手作業で読む手間を省き、AIに重要な合意事項や意見の変遷、対立点などを自動で抽出させることができます。
データの準備
メールソフトから該当するメール群をエクスポートし、テキストファイルまたはGoogleドキュメントにまとめてからソースとしてアップロードします。
プロンプト
この一連のメールのやり取りから、「納期」と「報酬額」に関する合意形成の過程を追跡してください。誰が、いつ、何を提案し、最終的にどのように合意に至ったのかを時系列でまとめてください。合意が曖昧な点があれば、それも指摘してください。
所内ナレッジの共有と新人教育の効率化
事務所内に蓄積された過去の案件のノウハウや書式が、新人弁護士にうまく共有・継承されていないというケースを想定します。
NotebookLMを使うことで、事務所の貴重な知的財産を「対話可能なデータベース」に変えることができます。
新人は、先輩に質問するのをためらうような基本的な事柄でも、AI相手に気軽に質問し、自己学習を進めることができます。
データの準備
「事務所ナレッジベース」というノートブックを作成し、業務マニュアル、各種書式のテンプレート、匿名化した過去の重要案件の概要報告書などをアップロードします。
新人弁護士からの質問
あなたは当事務所の新人弁護士です。ソースにある資料を基に、「秘密保持契約書(NDA)をドラフトする際の注意点」を5つ、箇条書きでまとめてください。
FAQの自動生成
ソースにある「業務マニュアル」を基に、新任の事務スタッフがよく質問しそうな事項を10個、FAQ形式(質問と回答のセット)で作成してください。
音声データを活用した議事録作成と情報整理
長時間のクライアントとの打ち合わせや、所内の戦略会議の音声録音データがあるが、文字起こしして整理する時間がないというケースを想定します。
弁護士の先生方は、通勤時間などの「隙間時間」を有効活用する必要性が高い職種です。
NotebookLMは、テキストを音声(ポッドキャスト風)に変換したり、逆に音声を検索可能なテキストに変換したりすることで、この課題を解決します。
移動中に耳で情報をインプットしたり、会議の内容を後からテキストで検索したりすることが可能になり、生産性を大きく向上させます。
データの準備
会議の音声ファイル(MP3, M4Aなど)をノートブックにアップロードします。
AIが自動で文字起こしを行い、ソースとして追加してくれます。
議事録の作成
この会議の音声書き起こしを基に、主要な議題、決定事項、各担当者のタスク(ToDo)、およびその期限をまとめた議事録を作成してください。
音声での要約確認
NotebookLMの「音声概要(Audio Overview)」機能を使ってみましょう。
チャット欄の右下にあるボタンから生成を指示すると、アップロードした資料(この場合は音声の書き起こし)の要点をまとめたポッドキャスト風の音声が生成されます。
これをダウンロードしておけば、通勤中にその日の会議の要点を耳で復習することができます。
「セキュリティ」と「料金」を徹底解説

新しいツールを導入する際、特に弁護士の先生方にとって、機能性以上に重要となるのが「セキュリティ」と「料金」の問題です。
特に、依頼者の機密情報を扱う上で、その安全性が担保されているかは、ツール選定における絶対的な前提条件となります。
ここでは、「セキュリティ」と「料金」について、詳しく解説します。
NotebookLMのセキュリティ
結論から申し上げますと、NotebookLMは弁護士業務の厳しいセキュリティ要件に応えうる設計になっています。
しかし、その安全性を維持するためには、Google側のポリシーを理解すると同時に、先生方ご自身の事務所での対策も不可欠です。
Googleのデータポリシー「学習には利用されない」
先生方が最も懸念されるのは、「アップロードした依頼者の機密情報が、GoogleのAIモデルの学習に使われてしまうのではないか?」という点でしょう。
この点について、Googleは明確に「NotebookLMにアップロードされたコンテンツは、AIモデルのトレーニングには使用されない」と公言しています。
つまり、先生方がアップロードした事件記録や契約書の情報が、他のユーザーへの回答生成に使われたり、GoogleのAIを賢くするために利用されたりすることはありません。
データは、あくまで先生方個人のノートブック内に閉じており、そのプライバシーは尊重されます。
これは、一般的なAIサービスとの大きな違いであり、弁護士がNotebookLMを信頼できる根拠となります。
弁護士側で講じるべき対策:セキュリティは共同責任
Googleが強固なセキュリティを提供していても、最終的な情報漏洩のリスクは、利用する側の管理体制に大きく依存します。
セキュリティは、ツール提供者と利用者の「共同責任」であると認識することが重要です。
事務所でNotebookLMを安全に利用するために、以下のベストプラクティスを徹底することをお勧めします。
- 強力なパスワードと二要素認証(2FA)の設定: NotebookLMへのアクセスはGoogleアカウントに紐づいています。このアカウント自体が、情報への「鍵」となります。推測されにくい複雑なパスワードを設定し、必ず二要素認証を有効にして、不正ログインのリスクを根本から断ちましょう。
- アクセス権限の厳格な管理: 事務所でGoogle Workspaceを共有している場合、誰がどのノートブックにアクセスできるかを適切に管理することが重要です。必要最小限のメンバーにのみ共有設定を行い、案件に関与しなくなったメンバーのアクセス権は速やかに削除する運用をルール化しましょう。
- 定期的な監査と不要データの削除: 担当が終了した案件のノートブックは、いつまでも残しておくのではなく、事務所の規定に従って定期的に削除することを推奨します。これにより、万が一アカウントが侵害された場合でも、漏洩する情報の量を最小限に抑えることができます。
- 従業員教育と内部ポリシーの策定: ツールの利便性だけでなく、情報漏洩のリスクや正しい利用方法について、所員全員の理解を深めるための教育が不可欠です。機密情報の取り扱いに関する明確なポリシーを策定し、周知徹底を図りましょう。
NotebookLM「無料版」と「有料版」の比較
NotebookLMは無料でも十分に使えるツールですが、より本格的に活用するなら有料プランを検討されるのも良いと思います。
プランによる違いを理解し、事務所のニーズに合った選択をすることが重要です。(2025年6月29日時点)
機能/プラン | NotebookLM (無料版) | Google One AI Premium / Workspace with Gemini (有料版) |
ベースモデル | Gemini 1.5 Pro | Gemini 1.5 Pro (およびGeminiアプリでの2.5 Proなど、より高度なモデルへのアクセス) |
ノートブックあたりのソース数 | 25件 | 最大5倍に増加 |
ソースあたりの文字数 | 50万文字 | 大幅に増加 |
ノートブック数 | 100件 | 最大5倍に増加 |
音声概要 | 基本的な利用 | 最大5倍に増加 |
高度な共有機能 | 閲覧者・編集者権限 | 「チャットのみ」共有など、より詳細な権限設定が可能 |
チャットのカスタマイズ | 不可 | 応答スタイルや長さを設定可能 |
ノートブックの分析 | 不可 | アクセス数やクエリ実行数を確認可能 |
セキュリティ | Googleの標準セキュリティ | Workspace版では、データがモデル学習に使われないことが保証 |
他のツールとの比較

NotebookLMは非常に優秀なツールですが、全ての業務をこなせる「魔法の杖」ではありません。
経験豊富な先生方ほど、単一のツールに依存するのではなく、複数のツールをそれぞれの得意分野に応じて組み合わせる「ツールスタック」を構築することが、生産性向上の鍵であることをご存知でしょう。
NotebookLMは、案件管理システムや単純なノートアプリを置き換えるものではありません。
その本質は、あくまで「AIを搭載した、あなた専用のリサーチ・分析アシスタント」です。
その役割は、先生方が集めた資料と「対話し、思考を深める」手助けをすることにあります。
このセクションでは、NotebookLMを先生方の既存のツール群の中にどのように位置づけ、最適に使い分けるべきかを解説します。
NotebookLMの立ち位置:分析と思考のレイヤー
法律事務所の業務を支えるITツールは、その目的によっていくつかの階層に分けることができます。
- 司令塔(案件管理システム): 案件の進捗、期限、顧客情報、会計などを一元管理する中心的な役割を担います。
- 情報倉庫(クラウドストレージ/ノートアプリ): 証拠資料やメモ、アイデアなどを保管・整理する場所です。
- 連絡網(ビジネスチャット): チーム内の迅速な情報共有やコミュニケーションを担います。
NotebookLMは、これらのいずれとも異なる、「分析・思考レイヤー」に位置づくツールです。
「情報倉庫」に保管された資料群を、一時的にNotebookLMという「分析室」に持ち込み、AIアシスタントと共に深く掘り下げ、得られた知見を基に「司令塔」である案件管理システム上のタスクを進めたり、「連絡網」でチームに指示を出したりする、というイメージです。
業務目的別ツールの使い分けガイド
具体的な業務目的別に、どのツールが最適かを以下の表にまとめました。
これにより、先生方の事務所のITツール導入や運用方針を検討する際の参考になりましたら幸いです。
業務目的 | 最適なツール | 具体的な役割 |
案件全体の進捗・顧客・会計管理 | 案件管理システム (例: LEALA, loioz, firmee) | 事件情報、タイムチャージ、請求、期限を一元管理する「司令塔」。事務所全体の業務の流れを可視化し、管理します。 |
資料の「分析・要約・リサーチ」 | NotebookLM | アップロードした資料群と対話し、事実関係の整理、論点の抽出、要約作成を行う「分析官」。資料の深い理解と思考の整理をサポートします。 |
アイデアのメモ・情報クリップ | ノートアプリ (例: Notion, Evernote) | ふとした瞬間のアイデア、参考になるウェブサイトのクリップ、簡単な打ち合わせメモなどを蓄積する「デジタルなメモ帳・ファイルキャビネット」です。 |
チーム内のコミュニケーション | ビジネスチャット (例: Chatwork, Slack) | 案件ごとのチャンネルで、リアルタイムな情報共有やタスクの依頼、簡単な質疑応答を行うための「コミュニケーションハブ」です。 |
このように、各ツールの役割を明確に理解し、連携させることで、事務所全体の業務効率は飛躍的に向上します。
NotebookLMは、既存のツール群と競合するのではなく、それらの価値をさらに高める、強力な「触媒」として機能するのです。
まとめ

本稿では、GoogleのAIツール「NotebookLM」が、いかにして弁護士の先生方の業務を革新しうるか、その仕組みから具体的な活用法、そしてセキュリティに至るまでをご説明しました。
AIの進化は、しばしば「仕事を奪う」という文脈で語られがちですが、NotebookLMは弁護士の仕事を代替するものではなく、むしろその能力を拡張する「信頼できるアシスタント」です。
NotebookLMは、その価値ある業務に先生方がより多くの時間とエネルギーを注げるよう、煩雑で時間のかかる下調べや整理作業を肩代わりしてくれるツールと言えると思います。
本記事がNotebookLMをご検討されている弁護士の先生に少しでもお役に立てましたら幸いです。