副業とは

最近、将来のことや新しい働き方を考えて、「副業」という言葉が気になっている会社員の方も多いのではないでしょうか。

収入を増やしたい、新しいスキルを身につけたい、あるいは好きなことで活動の幅を広げたいなど、副業を考えるきっかけは様々だと思います。

しかし、いざ副業を始めようと思っても、「そもそも何が副業にあたるの?」「収入はどこまでなら大丈夫?」「会社にバレたらどうしよう…」「税金ってどうなるの?」など、たくさんの疑問や不安が頭をよぎるのではないでしょうか。

この記事では、そんな副業に関する定義から、収入の考え方、税金の基本、会社とのルール、そして本業とのバランスの取り方まで、安心して副業に取り組むために知っておきたい大切なポイントをわかりやすくご説明していきたいと思います。

副業とは

副業の正式な定義は法律上定められていません。

一般的に「副業」とは「本業(主たる勤務先)以外で行う仕事」のことを指します。

その仕事の種類や働く時間に関わらず、本業以外で収入を得ている活動は、基本的にすべて副業と考えられるでしょう。  

法律の観点から見ると、日本国憲法第22条で「職業選択の自由」が保障されており、原則として、労働者は本業の勤務時間外であれば、自由に副業を行うことができます。

つまり、法律で副業が一律に禁止されているわけではありません。  

日本社会全体としても、副業や兼業といった働き方への関心が高まっています。

政府も「働き方改革」の一環として、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、企業が使う就業規則のモデルからも副業を原則禁止するような文言を削除するなど、柔軟な働き方を後押しする動きを見せています。

これは、副業を考える皆さんにとって、追い風と言えるかもしれません。  

ただし、ここで会社員の方が最も注意すべきなのは、お勤めの会社の「就業規則」です。

これは厚生労働省の「就労規則モデル」は、あくまでモデルであり、全ての会社がこの通りに就業規則を変更しているということではありません。

会社が就業規則で副業を禁止したり、制限したりすることは認められています。

そして、この就業規則は法的な効力を持つため、もし規則に違反して副業を行った場合、懲戒処分の対象となる可能性もあるのです。(この点は、後ほど「会社のルールは大丈夫?」の項目で詳しく触れます。)

ちなみに、公務員の場合は、国家公務員法や地方公務員法により、原則として副業が禁止されています。

これは、職務の公正性や信頼性を保つためですが、近年では一部で緩和の動きも見られます。(参照:内閣官房内閣人事局「国家公務員の兼業について(概要)」)

この記事の対象は民間企業の会社員の方を想定していますので、公務員の方は状況が異なる点を、念のため申し添えます。  

このように、副業は法律上の自由と、会社ごとのルールという二つの側面から理解する必要があります

原則自由ではあるものの、実際には会社の就業規則という「契約」に則って行動することが、トラブルを避ける上で非常に重要になるのです。

会社が副業に一定のルールを設けるのは、企業の正当な利益を守るためや、従業員が本業に専念することを期待するためなど、企業側にも理由があることを少し頭の片隅に置いておくと、ルールへの理解も深まるかもしれません。

副業の収入がいくらになったら税金の手続きが必要?

副業を始めると気になるのが、「収入がいくらになったら税金の手続きが必要になるの?」という点でしょう。

原則として、副業で得た収入は課税対象となります。

どのような場合に、どのような申告をしなければいけないのかを見てみましょう。

(注)以下の説明は一般的なケースであり、個別の状況によって取り扱いが異なる場合があります。不明な点は税務署や税理士にご相談ください。

【副業の税金1】「収入」と「所得」の違い

まず知っておかなければいけない事が、「収入」と「所得」の違いです。

「収入」とは副業で得た売上全体のことで、「所得」とはその収入から、その収入を得るためにかかった「必要経費」を差し引いた金額、つまり「儲け」の部分を指します。

副業で得られる所得には、主に以下のような種類があります。

  • 給与所得: 副業がアルバイトやパートのように、どこかの会社に雇用されて給料をもらう形の場合、その収入は「給与所得」となります。この場合、原則として経費は認められませんが、代わりに「給与所得控除」という一定額が収入から差し引かれます。副業先で年末調整が行われない場合、副業の年間「収入」が20万円を超えると確定申告が必要になることがあります。  
  • 雑所得: フリーランスとしての業務委託(例:ライティング、デザイン)、ネットオークションやフリマアプリでの販売(事業規模でない場合)、講演料などがこれに該当することが多いです。雑所得の場合は、収入から必要経費を差し引いて所得を計算します。青色申告は利用できません。  
  • 事業所得: 副業の規模が大きくなり、継続的かつ安定的に相当程度の収入があり、記帳や帳簿書類の保存を行っているなど、事業として実態があると認められる場合には「事業所得」となることがあります 。事業所得の場合、青色申告を選択できれば大きな節税効果(最大65万円の特別控除など)が期待できますが、複式簿記での記帳など、手間も増えます。初めて副業をされる方の多くは、まず雑所得からスタートすることが一般的でしょう。  

具体的にどのようなものが経費として認められるかというと、例えば、副業で使うパソコンの購入費の一部(家事按分)、打ち合わせのための交通費、仕事で使う文房具代、自宅で仕事をする場合の家賃や光熱費の一部などが考えられます 。  

【副業の税金2】所得税のルール

多くの方が耳にするのが「年間20万円の壁」ではないでしょうか。

所得税法では、給与所得者(会社員)の場合、本業以外の所得(副業での所得)の合計が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。

この「20万円」とは、先程ご説明した、収入から必要経費を引いた所得金額のことです。

例えば、手作りのアクセサリーを販売した場合、材料費や販売サイトの手数料などが経費にあたります。

この経費を差し引いた後の「所得」が20万円を超えるかどうかが、確定申告の一つの目安となるわけです。

副業で得た売上が30万円でも、経費が10万円かかったなら所得は20万円なので申告は不要となります。

一方、所得が20万1円以上になると、必ず確定申告を行う必要があります。

【副業の税金3】住民税のルール

この20万円ルールは所得税についての基準です。

住民税については、例え副業所得が20万円以下でも市区町村への申告が必要です。

これは見落としがちなポイントですので、必ず覚えておきましょう。

所得税の確定申告をすれば、その情報が市区町村にも共有されるため、別途住民税の申告をする必要はありません 。

このように、副業収入の申告ルールは所得税と住民税で異なる点に注意しましょう。

会社のルールは大丈夫?就業規則の確認ポイント

就業規則の確認ポイント

副業を始める前に行うべきことは、お勤めの会社の「就業規則」を確認することです。

会社員である以上、会社のルールを守るということは絶対に必要なことですし、ルールを破った場合は思っていた以上のトラブルになる可能性もあります。  

先に述べたように、政府は副業・兼業を推進しており、モデル就業規則も改訂されています。

モデル就業規則では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる(モデル就業規則 第70条 副業・兼業」という規定が新設されました 。(厚生労働省:「モデル就業規則について」)

しかし、これはあくまでモデルであり、全ての会社がこの通りに就業規則を変更しているとは限りません。

自社の就業規則がどのようになっているか、最新のものを確認することが不可欠です 。  

会社が副業を制限または禁止する場合、一般的に以下のような理由が挙げられます。

これらを理解しておくことで、会社のルールに対する納得感も変わってくるかもしれません。

  • 労務提供上の支障がある場合: 副業によって疲労が蓄積し、本業の業務に集中できない、遅刻や欠勤が増えるなど、本業のパフォーマンスに影響が出るケースです。  
  • 業務上の秘密が漏洩する場合: 会社の機密情報やノウハウが、副業を通じて外部に漏れてしまうリスクを防ぐためです。  
  • 競業により自社の利益が害される場合: 競合他社で働く、あるいは自社の事業と競合するような副業を行い、結果として自社の利益を損なう可能性があるケースです。  
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合: 副業の内容が社会通念上好ましくないものであったり、会社の評判を落としたりするような行為があった場合です。  

就業規則で副業が認められている場合でも、多くは「許可制」または「届出制」といった手続きが定められています。

  • 許可制: 副業を始める前に会社に申請し、正式な「許可」を得る必要がある制度です。会社が許可しなければ、副業を始めることはできません 。  
  • 届出制: 副業を始める際に、会社に所定の書類などで「届け出る」必要がある制度です。必ずしも許可が必要なわけではありませんが、届け出た内容が会社の定める禁止事項に該当する場合などは、認められないこともあります 。  

どちらの制度が採用されているか、どのような手続きが必要か、就業規則でしっかり確認しましょう。

会社によっては、副業の内容(業務内容、相手先、労働時間など)について、詳細な情報の提出を求められることもあります。

これは、会社が上記のようなリスクを判断し、適切に労務管理を行うために必要な情報だからです。  

もし就業規則に副業に関する明確な記載がない場合や、解釈に迷う場合は、自己判断せずに人事部や上司に確認することをお勧めします。

後々のトラブルを避けるためには、事前の確認と透明性のある対応が大切です。

確認項目確認内容・ポイント
副業の可否「原則禁止」「原則容認(条件付き)」「届出制」「許可制」など、基本的なスタンスはどうか。
手続き許可制の場合の申請方法、申請先、必要書類。届出制の場合の届出方法、提出書類、提出期限など。
禁止・制限される副業の種類競業避止義務(競合他社での就労禁止など)、情報漏洩リスクの高い業務、会社の信用を損なう可能性のある業務など、
具体的にどのような副業が禁止・制限されているか。
労働時間・健康管理に関する規定副業を行う場合の総労働時間の上限、自己申告の要否、健康状態の報告義務などがあるか。
秘密保持義務・職務専念義務副業を行う上での秘密保持義務や、本業への職務専念義務について、改めて確認すべき条項があるか。
違反した場合の措置就業規則に違反して副業を行った場合の懲戒処分の種類(譴責、減給、出勤停止、解雇など)がどのように定められているか。

副業をする時の「労働時間」に関する注意点

副業をする時の「労働時間」に関する注意点

副業を考える上で、労働時間とその管理は非常に重要なテーマです。

【副業の労働時間1】法律上の注意点

本業と副業の両方で雇用契約を結んで働く場合、法律上のルールも関わってきます。

労働基準法第38条第1項では、労働時間は事業場を異にする場合においても通算すると定められています。

つまり、本業の会社での労働時間と、副業先(こちらも雇用契約の場合)での労働時間を合計して、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えた部分は時間外労働として扱われ、割増賃金の支払いが必要になる可能性があるのです 。  

この割増賃金をどちらの会社が支払うかについては、原則として、後から労働契約を締結した会社(副業先)や、実際に時間外労働をさせた会社が負担することになりますが、運用は複雑です。  

また、労働基準法は週1回の休息日確保も義務づけています。

副業が休日や深夜帯に及ぶ場合は、休息日が潰れないよう調整するか、本業・副業の勤務時間を上手に振り分けることが必要です。

【副業の労働時間2】心身の健康と本業への影響の注意点

この労働時間の通算ルールは、主に本業も副業も「雇用契約」である場合に適用されます。

もし副業がフリーランスとしての業務委託契約などの場合は、この労働基準法上の労働時間通算の考え方は直接的には適用されません。  

しかし、法的なルール以上に大切なのは、ご自身の健康と本業への影響です。

副業によって総労働時間が増え、十分な休息が取れなくなると、心身の疲労が蓄積し、健康を損なう可能性があります。

会社(本業の勤務先)は、労働契約法第5条に基づき、従業員の生命や身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。

従業員が副業によって過度に疲弊している状態は、会社にとっても望ましいことではありません。  

また、それは本業のパフォーマンス低下にも繋がりかねません 。  

本業に支障が出ない範囲で、かつ、ご自身の健康を維持できる範囲で、副業にどれくらいの時間を割けるのか、現実的に考えることが重要です。

副業の種類(雇用型か非雇用型か)によって労働時間管理の考え方が変わる点や、法制度がまだ発展途上である部分もあることを理解しつつ、何よりもご自身の「健康第一」「本業優先」のスタンスで、無理のない労働時間を心がけましょう。

まとめ

まとめ

ここまで、「副業の定義」をテーマに、収入の考え方、税金、会社のルール、そして本業とのバランスについて詳しく見てきました。

副業を始めるにあたって大切なポイントを改めて整理すると、以下の点が挙げられます。

  • 「副業」とは、本業以外で収入を得る活動全般を指すこと。
  • 副業所得が年間20万円を超える場合は原則として所得税の確定申告が必要であり、20万円以下でも住民税の申告は必要になる場合があること。
  • 何よりもまず、お勤めの会社の就業規則を確認し、定められたルール(許可制や届出制など)を遵守すること。
  • 本業に支障をきたさず、心身の健康を維持できるよう、労働時間や体調管理をご自身でしっかりと行うこと。

副業は、収入アップやスキルアップ、自己実現など、多くの可能性を秘めています。

しかし、その一方で、税務処理や会社との調整、自己管理といった責任も伴います。

これらの知識を事前にしっかりと身につけ、計画的に取り組むことが、副業を成功させ、長く続けていくための秘訣と言えるでしょう。

働き方が多様化する現代において、副業は自分らしい生き方や働き方を見つけるための一つの手段でもあります。

正しい知識と準備をもって、ぜひ有意義な副業ライフを実現してください。