
目次
はじめに
副業解禁の流れが進む中、大手企業に勤める正社員の方でも「副業を始めてみたい」と考えるケースが増えています。
しかし一方で、「副業が住民税で会社にバレる」という話を聞いたことはないでしょうか。
実は住民税の特別徴収(給与天引き)の仕組みと近年の制度徹底によって、副業の収入が思わぬ形で勤務先に知られてしまう可能性があります。
本記事では、税務の専門家の視点から個人住民税の特別徴収とは何か、全国的に特別徴収が徹底される背景、副業と住民税の関係と会社にバレる仕組み、「普通徴収」への切り替えが認められにくくなっている現状、そして会社に副業がバレない方法の限界とリスクについて解説します。
最後に、副業を行う上で必要な税務上の届け出・確定申告のポイントについても触れます。
専門的な内容をできるだけわかりやすく説明しますので、これから副業を始めようとしている方はぜひ参考にしてください。
個人住民税の「特別徴収」とは何か?
個人住民税の特別徴収とは、会社(事業主)が従業員に代わって毎月の給与から住民税を差し引き、従業員の住所地の自治体に納める制度です。
言い換えれば、所得税の源泉徴収の住民税版と考えるとわかりやすいでしょう。
住民税には都道府県民税と市区町村民税(市民税)が含まれますが、特別徴収ではこれらをまとめて給与天引きで納税します。
給与所得者(サラリーマン)の場合、毎年1月1日時点で住んでいる自治体からその年の住民税が課税され、通常は前年度の所得に基づいて税額が算出されます。
この税額を6月から翌年5月まで12分割し、毎月の給料から引かれるのが特別徴収の仕組みです。
対して普通徴収とは、住民税を自分で納付する方法のことです。
自治体から自宅宛てに納税通知書(納付書)が年4回送付され、自分で住民税を払い込む形になります。
会社員の場合、本来は会社経由の特別徴収が原則ですが、特別な事情があるときのみ例外的に普通徴収が認められるケースもあります(詳細は後述します)。
まずは、「給与天引きで払う方法が特別徴収、自分で納める方法が普通徴収」と押さえておきましょう。
特別徴収が全国的に徹底される背景と理由
本来、地方税法では「所得税を源泉徴収する義務がある事業主は、従業員の個人住民税も特別徴収しなければならない」と定められており、会社は従業員の住民税を給与天引きで納める義務があります。
ところが、少し前までは制度の周知徹底が十分ではなく、「うちは手間がかかるから社員の住民税は各自で納付してもらっている」といった企業も散見されました。
しかし近年、この状況が大きく変わっています。国や都道府県が法令遵守と徴収率向上の観点から特別徴収の徹底を強力に推進し始めたのです。
具体的には、2010年代後半頃から各都道府県が一斉に管内の全事業主を特別徴収義務者に指定する取り組みを進めました。
例えば長崎県では平成27年度(2015年度)までに県内全市町で特別徴収を完全実施する目標を掲げています。(長崎県庁ホームページ:「個人の住民税における特別徴収の一斉指定について」)
鳥取県でも平成30年度(2018年度)から「原則すべての事業主で特別徴収を徹底する」方針を打ち出しています。(鳥取県庁ホームページ:「個人住民税の特別徴収(給与からの引き去り)を徹底しています」)
東京都も平成26~28年度に周知期間を設けた上で、平成29年度(2017年度)から特別徴収を原則100%実施に踏み切りました。(東京都主税局ホームページ:「個人住民税と特別徴収について」)
このように全国的に制度徹底が図られた背景には、「住民税を後払い(普通徴収)にしていたために生じたサラリーマンの納税滞納が各地で問題になった」ことがあります。
本来、給与天引きされていれば滞納にならなかったはずの税金が未納になるケースが多かったため、徴収漏れを防ぎ確実に税収を確保するために特別徴収が最も効果的だと注目されたのです。
また、給与からの天引きは納税者にとっても1回あたりの負担額が小さく計画的に納付できる利点があることから、自治体としても積極的に特別徴収への移行を進めているわけです。
まとめると、法律上もともと義務であった住民税特別徴収が、近年になって全国で本格的に強制されるようになったということです。
大手企業であれば以前から特別徴収が一般的でしたが、現在では中小企業やアルバイト従業員が多い事業所まで含め、ほぼすべての給与支払者が特別徴収を行う時代になっています。
正社員が副業を始めたら住民税でバレる?その仕組みとは
「副業の所得は住民税で会社にバレる」という話には根拠があります。
具体的には、副業によって所得(収入)が増えると、その分住民税額が増加しますが、住民税は勤務先が特別徴収で肩代わりして納付しているため、会社は従業員ごとの住民税額を知る立場にあるのです。
例えば、あなたと同期入社の同僚がほぼ同じ給与水準だったのに、あなただけ住民税の年間額が明らかに高ければ、「何か給与以外に収入があるのでは?」と人事担当者が気づく可能性があります。
実際、副業の所得が本業の給与所得に上乗せされることで住民税額が増えると、勤務先に副業収入の存在を察知される要因になります。
逆に、副業で事業所得の赤字が出て本業の給与と損益通算した場合、所得が減って住民税額が下がるケースもあります。
その場合も「前年より住民税が妙に少ないけどどうしてだろう?」と不審に思われ、副業(しかも赤字)が発覚する一因になり得ます。
もう少し詳しく仕組みを説明しましょう。
会社は毎年5月末頃、従業員の住所地の自治体から「特別徴収税額通知書」という書類を受け取ります。
これは各従業員について年間いくら住民税を天引きするかを通知するものです。
通常、この通知書は会社用(給与担当者閲覧用)と本人用の2種類があり、会社は従業員本人にも住民税決定通知を配布します。
会社用の通知書には各従業員の年間住民税額と月割り額のみが記載されますが、本人用には「主たる給与以外の合算所得区分」などの欄があり、給与所得以外の所得額がある場合に「*」印や合算額が記載されます。
仮に人事担当者が不用意にこの本人用通知書の中身まで見てしまうと、給与以外の所得があることが一目瞭然になってしまいます。
自治体によっては本人用通知書を圧着ハガキやマスキング処理で内容を隠した形で渡す配慮をしているところもありますが、逆に詳細な所得内訳が露出したままの明細書を封をせず配布する例もあったようです。
このように、住民税の額そのものや通知書の記載内容から、副業の存在が会社に知られるリスクがあるのです。
ポイントを整理すると、副業によって前年所得が増える→住民税額が増える→会社経由の天引き額が増える(または通知書に合算所得が記載される)→それをきっかけに会社に疑念を持たれる、という仕組みです。
副業禁止の会社であれば特に神経質になる部分ですが、この住民税の仕組みが「思わぬところから副業が露見する」要因となり得ることを理解しておきましょう。
「副業分だけ普通徴収」に切り替えられないケースが増えている現状
副業が住民税からバレるのを防ぐ方法としてよく言われるのが、「副業で増えた住民税分だけ普通徴収にする」という対策です。
確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」欄で「自分で納付(普通徴収)」に〇を付けて申告することで、副業所得にかかる住民税だけ自宅に納付書が送られ、自分で納める手続きを取ることができます。
一見これで完璧に副業分を会社に悟られずに済みそうですが、注意すべきは「普通徴収への切り替え申請」が必ずしも通るとは限らないという点です。
先述の通り、法律上は給与所得者の住民税は原則特別徴収で徴収しなければならず、従業員の希望だけで普通徴収を選択することはできません。
自治体側も特別徴収の一元化を進めているため、「どうしても副業分は自分で納めたい」という申出に簡単には応じなくなってきています。
特に、副業先がアルバイト・パートなど給与所得になる場合には要注意です。副業先の会社も給与支払報告書を自治体に提出するため、自治体から見るとあなたには給与を支払っている事業者が2社あることになります。
その場合、自治体は原則としてその全ての給与所得について特別徴収を行う義務があるため、副業分だけ普通徴収にすることは認められないケースが高いのです。
実際、「確定申告で普通徴収を選択したのに結局会社に副業がバレてしまった」という事例は珍しくありません。
以下のパターンになっている方も増えているといいます。
- ネットで「副業分の住民税は自分で納付(普通徴収)にすれば会社にバレないらしい」と調べて知る。
- 実際に確定申告書で普通徴収を選択し、自力で確定申告を行った。
- ところが6月になり、会社から配布された住民税通知を見て副業がバレてしまった(つまり申告時に普通徴収を選択したはずなのに、普通徴収になっていなかった)。
この「普通徴収希望が通らず、副業分も結局会社経由の特別徴収にされていた」というパターンは非常によくあるそうです。
特に副業が給与所得の場合は「それが普通(特別徴収が当然)」であり、確定申告書の欄に〇を付けただけでは防げないことが多いのです。
自治体によって対応は若干異なりますが、総じて近年は副業分だけ普通徴収に回すことが難しくなってきていると考えておいた方がよいでしょう。
実際、「副業が給与所得に該当する場合は普通徴収の選択には応じない」という方針を打ち出している自治体もあり、この傾向は今後ますます加速するとも言われています。
以上を踏まえると、「会社に住民税経由で副業がバレるのを完全に防ぐ」ことは、従来言われていたほど簡単ではなくなっています。
「とりあえず普通徴収にすれば大丈夫」と安易に信じるのは危険であり、場合によっては会社に隠れて副業をすること自体のリスクを改めて考える必要があるでしょう。
会社に副業がバレないようにする方法の限界とリスク
住民税の特別徴収が徹底された今、会社に副業を知られないようにする対策には限界があります。
最大のネックである住民税については前述の通り、確実に副業分を切り離せる保証がなくなりつつあります。
加えて、たとえ幸運にも副業分を普通徴収にできたとしても、自分で住民税を納め忘れるリスクや、会社以外の要因から副業が発覚するリスクも考えておかねばなりません。
まず副業を秘密にするために自分で住民税を納める方法(普通徴収)を選択できた場合、その後は年4回の納期までにご自身で忘れずに住民税を納付する必要があります。
会社員は通常、税金はすべて天引きで処理されるため、自分で税金を納める習慣がない方も多いでしょう。
うっかり納付を失念すると延滞金が発生したり、最悪の場合納税督促状が自宅に届いて家族に副収入を怪しまれる…といったリスクもゼロではありません(※会社には直接関係ありませんが、生活上のリスクとして頭に入れておきましょう)。
また、住民税以外から副業が発覚する可能性もあります。
近年よく聞くのは、SNS上の投稿や副業に割く時間の増加による本業でのパフォーマンス低下など、税金以外のところで会社に勘付かれるケースです。
例えばSNSで副業の実績をうっかり自慢してしまったり、明らかに残業もしていないのに疲弊している様子が見られると、「何か他にやっているのでは?」と疑われることがあります。
また、副業先から誤って会社の住所に郵便物が届いてしまった、同僚が副業先のお客様だった、など思いもよらない経路で露見することも考えられます。
会社規程上のリスクも忘れてはいけません。
仮に就業規則で副業禁止となっている会社で無断で副業をしていた場合、万一発覚すると懲戒処分の対象になる可能性があります。
副業禁止規定がある企業では解雇事由になり得るケースもありますし、少なくとも上司からの信用を損ねてしまうでしょう。
最近は政府主導で副業推進の流れがあり、副業を容認または奨励する会社も増えていますが、依然として副業NGの企業も存在します。
そうした環境で「バレなければいいだろう」と始めた副業には、発覚したときの大きなリスクが伴うことを認識してください。
最後に、税務上のリスクにも触れておきます。
副業収入を意図的に申告せず税金を納めないままでいると、それは立派な脱税行為となります。
会社に知られたくないばかりに確定申告を怠ったり、収入をごまかしたりすることは絶対に避けましょう。
税務署や自治体はマイナンバー制度等で個人の所得情報を管理していますが、企業が従業員のマイナンバーを使って副業状況を照会することは認められていません。
しかし税務当局は別の目的で把握した情報から無申告を見抜くことがありますし、その場合は延滞税や無申告加算税などペナルティが科されます。
副業で得た収入にかかる税金は正しく納める――これを守らない限り、長い目で見てメリットは何一つないといえます。
以上のように、会社に副業を隠し通すことには様々な制約とリスクがあるのが現実です。
「絶対にバレない方法」という魔法のような解決策は存在しない、と心得ておきましょう。その上で、副業に取り組むのであれば万一バレても問題にならないようにする(会社の許可を得る、副業禁止でない職場を選ぶなど)か、あるいはバレても支障が少ない内容の副業に留めておくといった検討も必要かもしれません。
税務上正しく副業収入を届け出・申告する必要性とポイント
副業を始めたら、税務上は必ず収入を適切に申告し、納税する義務があります。
これは金額の大小や会社の就業規則に関係なく、納税者として守るべき基本ルールです。
副業が会社にバレるかどうかにかかわらず、税金の申告・納付を怠れば後々自分自身が困ることになりますので、以下に副業に関する税務手続きのポイントを整理します。
確定申告が必要か確認する
副業で所得(収入から経費等を差し引いた額)が年間20万円を超える場合、原則として確定申告が必要です。
会社員の場合、本業の給与は会社が年末調整していますが、給与以外の所得については自分で確定申告しなければなりません。
逆に副業所得が20万円以下で確定申告の義務がない場合でも、住民税の申告は別途必要なので注意しましょう。
少額だからといって黙っていても、自治体にはいずれ把握されますし、住民税を正しく納めないと前述のように会社経由で発覚するリスクも高まります。
副業の所得区分を把握する
副業の内容によって、税法上の所得の種類が異なります。
アルバイトやパート収入は「給与所得」、個人で事業を行えば「事業所得」または規模によっては「雑所得」、不動産貸付なら「不動産所得」などに分類されます。
それぞれ計算方法や経費の扱いが異なるため、自分の副業がどれに該当するか確認しましょう。
特に事業所得や雑所得の場合、経費として差し引ける支出があるなら漏れなく計上し、課税所得を適正に圧縮することも大切です(必要経費を計上することで課税対象となる所得額を減らせます)。
税務上の届出を検討する
副業が継続的な事業(フリーランスや自営業的なもの)にあたる場合、税務署に開業届を提出することが推奨されます。
開業届そのものは提出しなくても罰則はありませんが、提出することで青色申告承認申請が可能になり、青色申告特別控除(最大65万円の控除)など税制上のメリットを受けられる場合があります。
副業の規模や将来性によりますが、本格的に事業収入を伸ばしたいのであれば青色申告の利用も視野に入れるとよいでしょう。
いずれにせよ、届け出を含めた税務手続きは原則として副業開始から2ヶ月以内(その年の3月15日まで等)に行う必要がありますので、タイミングを逃さないよう注意してください。
申告と納税を確実に行う
確定申告が必要な人は毎年原則2月16日~3月15日(令和6年分の場合は令和7年3月17日まで)に申告書を提出し、所得税を納付します。
確定申告をすれば、そのデータが自治体にも共有され住民税が計算されますので、別途住民税の申告をする必要はありません(確定申告をしていない副業20万円以下の人は3月15日頃までに市区町村役場で住民税の申告を行いましょう)。
納税については、所得税は申告時に納めるか口座振替などで期限内に支払い、住民税は特別徴収になる分は会社給与から天引き、普通徴収になる分は自治体からの納付書で各期日までに支払います。
期限を守って正しく納税することが、副業を安心して続ける第一歩です。
専門家への相談も活用
副業の内容や税金計算が複雑な場合、一度税理士やファイナンシャルプランナーに相談するのも良いでしょう。
特に本業が副業禁止ではないものの、自分で計算や手続きをするのが不安な方、副業が軌道に乗って収入が大きくなってきた方などは、早めに専門家に相談することで税務上有利な方法をアドバイスしてもらえます。
副業に詳しい専門家であれば、住民税通知の扱い方などプライバシー面の配慮についてもアドバイスしてくれるでしょう。
以上が、副業に関する税務手続きの主なポイントです。
副業を始める際には「会社にバレないか?」という点ばかりに気を取られがちですが、それ以上に「税金を正しく納めること」が重要であることを忘れないでください。
税務上適切に処理さえしていれば、たとえ会社に副業が知られ多少気まずくなったとしても法律的なペナルティはありませんし、むしろ胸を張って副収入を得ていると言えるでしょう。
一方、税金を滞納したり無申告で放置したりすると、会社うんぬん以前に納税者として信用を失いかねません。
まとめ

副業を始めようとする会社員にとって、住民税の特別徴収制度は避けて通れないポイントです。
特別徴収の徹底によって副業が会社に伝わりやすくなっている現状や、普通徴収への切り替えが思うようにできない実態について解説してきました。
住民税対策だけで副業の露見リスクをゼロにするのは難しく、また無理に隠そうとすれば別のリスクを招く可能性もあります。
最も大切なのは、副業に伴う税金を正しく申告・納付し、本業・副業ともに誠実に取り組むことです。
副業で得た経験や収入は、あなた自身のキャリアや生活を豊かにする大切なものです。
それを無用なトラブルで失わないためにも、本記事で述べたポイントを踏まえて賢く副業と税金に向き合ってください。
会社のルールを確認しつつ、必要に応じて専門家の助言も得ながら、ぜひ健全な副業ライフを送っていただきたいと思います。