
社会保険労務士の先生方の中には、顧問先の人事労務に関する相談対応、頻繁な法改正へのキャッチアップ、そして山積みの社会保険手続き書類、事務所の机には、常に何かしらの書類があふれ、重要な情報がどこにあるのか探すのに時間がかかってしまう…そんな経験をお持ちの先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
「業務を効率化したい」「ペーパーレスを進めたい」と考えてはいるものの、何から手をつければ良いのかわからない。
特に、顧問先のマイナンバーをはじめとする機密情報を扱う社労士事務所にとって、セキュリティは最優先事項。
新しいツールを導入することへの不安も大きいと思います。
この記事では、多くの企業で導入されている「Google Workspace」の社労士事務所での活用方法を分かりやすくご説明したいと思います。
目次
なぜ今、社労士事務所にGoogle Workspaceなのか?
多くの社労士事務所が、日々の業務の中で共通の課題に直面しています。
これらの課題は、一つひとつが独立しているように見えて、実は密接に絡み合っています。
ここでは、代表的な4つのお悩みを取り上げ、Google Workspaceがどのようにしてその解決の糸口となるのかを見ていきましょう。
【お悩み1】終わらない紙業務と保管スペースの問題
雇用契約書、労働者名簿、社会保険の資格取得届、タイムカード…。
社労士事務所の業務は、法律で保管が義務付けられている書類も多く、どうしても紙の書類が増えがちです。
ファイリングキャビネットは常に満杯で、過去の書類を探し出すのに一苦労。特に、複数の拠点を持つ顧問先の場合、書類の郵送でのやり取りや管理は非常に煩雑になります。
また、紙のタイムカードを集計して給与計算システムに入力する、といった手作業は、時間もかかれば入力ミスの原因にもなります。
これらの課題は、単なる非効率にとどまらず、書類の紛失や破損、意図しない第三者による閲覧といった物理的なセキュリティリスクもはらんでいます。
【お悩み2】業務の属人化と引き継ぎの困難
「この手続きの進め方は、Aさんしか知らない」「あの顧問先の特殊な事情は、Bさんの頭の中にしかない」。
このように、特定の業務の進め方やノウハウが、特定の担当者にしかわからない状態を「業務の属人化」と呼びます。
この状態は、事務所にとって大きなリスクです。
担当者が急に休んだり、退職してしまったりすると、業務が滞ってしまいます。
また、業務量が一部のスタッフに偏り、他のスタッフが手伝いたくても手伝えない、といった状況も生み出します。
新人教育に時間がかかり、なかなか戦力化できないという問題も、この属人化が原因の一つです。
業務フローを可視化し、事務所全体で共有できる仕組みがなければ、この問題は解決しません。
【お悩み3】顧問先との非効率なコミュニケーション
顧問先との情報共有は、メールでのファイル添付が中心になりがちです。
しかし、「修正をお願いします」というやり取りを繰り返すうちに、「一体どのファイルが最新版だっけ?」と混乱した経験はないでしょうか。
また、マイナンバーなどの機微な情報を含むファイルを、パスワードもかけずにメールで送受信することには、大きなセキュリティリスクが伴います。
かといって、その都度、別のファイル転送サービスを使うのは手間がかかります。
顧問先の担当者と迅速かつ安全に情報を共有し、タイムリーな意思決定を促すためには、より効率的でセキュアなコミュニケーション手段が求められています。
【お悩み4】高まるセキュリティ要件とコンプライアンスのプレッシャー
社労士は、社会保険労務士法によって厳格な守秘義務が課せられています。
特にマイナンバー制度の導入以降、個人情報の取り扱いに対する社会の目は一層厳しくなりました。
こうした背景から、全国社会保険労務士会連合会は、社労士事務所の個人情報保護体制を認証する「SRPⅡ認証制度」を設けています。
この認証は、顧問先からの信頼を得る上で非常に重要ですが、認証基準を満たすためには、物理的・技術的な安全管理措置を高いレベルで整備・運用する必要があり、IT専門の担当者がいない多くの事務所にとっては大きなプレッシャーとなっています。
これら4つの課題は、互いに影響し合っています。
紙ベースの業務は情報のサイロ化(属人化)を招き、非効率なコミュニケーションを助長し、結果として全体のセキュリティリスクを高めるという悪循環を生み出しているのです。
Google Workspaceは、その統合された機能によって、この悪循環を断ち切り、事務所全体の業務基盤を再構築する力を持っています。
課題 | Google Workspaceによる解決策 |
1. 終わらない紙業務 | Google Driveで完全ペーパーレス化。検索機能で瞬時に書類を発見。 |
2. 業務の属人化 | Googleサイトで業務マニュアルを共有。Googleドキュメントの共同編集でノウハウを可視化。 |
3. 顧問先との非効率なやり取り | 共有ドライブと共有リンクで安全かつ最新のファイルを共有。Google Meetで遠隔でも円滑な打ち合わせ。 |
4. セキュリティとコンプライアンス | 2段階認証や高度なアクセス権限管理で情報を保護。SRPⅡ認証の要求事項に対応。 |
Google Workspace基本の主要ツール

それでは、具体的にGoogle Workspaceのどのツールが、どのように社労士業務の基盤となるのかを見ていきましょう。
ここでは、特に重要な5つの基本ツールを、社労士事務所での活用シーンをイメージしながらご紹介します。
【Gmail & Google Chat】プロフェッショナルなコミュニケーションの拠点
- Gmail: info@abc-sr.com のような独自ドメインのメールアドレスを使用することで、顧問先からの信頼性が格段に向上します。強力な迷惑メールフィルタが標準で備わっており、セキュリティ面でも安心です。顧問先ごとに「ラベル」を付けてメールを自動で整理すれば、受信トレイがすっきりと管理できます。
- Google Chat: 所内の「ちょっとした確認」や「簡単な情報共有」に最適です。メールを使うほどでもない用件はチャットで済ませることで、メールボックスの整理が楽になります。「〇〇社様 担当チーム」といったプロジェクトごとのチャットルーム(スペース)を作成すれば、関連情報が一か所にまとまり、過去のやり取りの確認も簡単です。
【Google Drive】安全で検索可能なデジタルキャビネット
Google Driveは、単なるファイル置き場ではありません。
事務所のすべての情報を集約する、安全なデジタルキャビネットです。
クラウド上にデータが保存されるため、事務所のパソコンが故障してもデータが消える心配はありません。
自宅や外出先など、どんな端末からでも安全にアクセスできます。
最大の特長は、Googleの強力な検索機能です。
ファイル名だけでなく、PDFや画像ファイルの中の文字まで検索対象になるため、「確か、あの顧問先の就業規則にこんな一文があったはず…」といった曖昧な記憶からでも、必要な書類を瞬時に見つけ出すことができます。
【Google Docs/Sheets/Slides】共同作業を加速させるリアルタイム編集
- Googleドキュメント (文書作成): 顧問先への報告書や就業規則の作成に活用できます。
- Googleスプレッドシート (表計算): 手続きの進捗管理表や、給与計算のチェックリストとして役立ちます。
- Googleスライド (プレゼンテーション): 法改正に関する顧問先向けの説明会や、所内研修の資料作成に便利です。
これらのツールの最も画期的な機能は「リアルタイム共同編集」です。
複数のスタッフが同時に一つのファイルを開き、誰がどこを編集しているかを見ながら作業を進められます。
メールでファイルを何度もやり取りする手間がなくなり、レビューや修正作業のスピードが劇的に向上します。
【Google Calendar】事務所全体のスケジュールを管理
個人の予定管理はもちろん、事務所全体のスケジュール管理に絶大な効果を発揮します。
「社会保険手続き 締切管理」「顧問先定例会」といった共有カレンダーを作成すれば、重要な期限を誰もが見落とすことがなくなります。
スタッフの予定を共有することで、会議の日程調整もスムーズに行えます。
AIが参加者全員の空き時間を探して候補を提案してくれる機能もあります。
【Google Meet】いつでもどこでも開けるバーチャル会議室
遠方の顧問先とのオンライン面談や、在宅勤務のスタッフとの打ち合わせに不可欠なツールです。
画面共有機能を使えば、複雑な申請書の記入方法を説明したり、資料を一緒に見ながら議論したりすることが容易になります。
会議を録画する機能を使えば、参加できなかったスタッフへの情報共有や、議事録代わりの記録として後から見返すことも可能です。
これらのツールは、それぞれが独立して機能するだけでなく、シームレスに連携することで、社労士事務所の業務全体を滑らかにつなぎ、効率化を加速させます。
アプリ (App) | 活用イメージ |
Gmail | 顧問先ごとにラベルを付け、メールを自動で整理。独自ドメインで信頼性向上。 |
Google Chat | 「〇〇社様 担当チーム」スペースを作成し、所内での情報共有を迅速化。 |
Google Drive | 顧問先ごとにフォルダを作成し、契約書や手続き書類を安全に一元管理。 |
Google Docs | 顧問先への報告書や就業規則の草案を共同で編集・レビュー。 |
Google Sheets | 手続き進捗管理表や給与計算のチェックリストとして活用。 |
Google Calendar | 社会保険の届出期限や顧問先との定例会議を共有カレンダーで管理。 |
Google Meet | 遠方の顧問先とのオンライン面談や、法改正に関する所内研修会を実施。 |
【実践編】業務別に見るGoogle Workspace活用術

基本ツールを理解したところで、いよいよ実践編です。
ここでは、社労士事務所の3つの主要な業務テーマ「ペーパーレス化と情報管理」「業務フローの標準化」「コミュニケーションの活性化」に沿って、具体的な活用術をステップ・バイ・ステップで解説します。
ペーパーレス化と情報管理の徹底
紙からの脱却は、業務効率化の第一歩です。
Google Workspaceを使えば、単に紙をデータ化するだけでなく、情報を「使える資産」に変えることができます。
【Step1】紙書類をスキャナでPDF化
すべての書類をスキャンしてGoogle Driveへまずは、既存の紙書類をスキャナでPDF化し、Google Driveに保存することから始めます。その際、一貫性のあるフォルダ構造を作ることが重要です。例えば、以下のようなルールを設けます。
- 顧問先
- A株式会社
- 01_契約関連
- 02_社会保険手続き
- 2025年
- 03_給与計算
- 04_就業規則
- A株式会社
このような階層構造にすることで、誰が見てもどこに何があるか直感的に理解できます。
【Step2】「共有ドライブ」に保存する
「共有ドライブ」で情報を事務所の資産にする事務所の公式なファイルは、個人の「マイドライブ」ではなく、「共有ドライブ」に保存することを徹底します。
この二つの最大の違いは、ファイルの所有権です。
「マイドライブ」のファイルは個人に帰属しますが、「共有ドライブ」のファイルは事務所(チーム)に帰属します。
これにより、担当者が退職してもファイルが失われることがなくなり、業務の属人化を防ぐ上で極めて重要な役割を果たします。
【Step3】Googleドキュメントやスプレッドシートでテンプレート化
あらゆる文書をテンプレート化するGoogleドキュメントやスプレッドシートを使い、新規顧問先との契約書、各種申請書のドラフト、顧問先への月次報告書など、繰り返し使う文書のテンプレートを作成しておきます。
これにより、作業のたびに一から文書を作成する手間が省け、品質のばらつきもなくなります。
【Step4】「検索」を使いこなす
Google Driveの検索窓は、単なるファイル名検索ではありません。
文書内のキーワードで検索できることを全所員で共有し、活用します。
これにより、「あの書類どこだっけ?」と探す時間がゼロに近づき、事務所全体の生産性が劇的に向上します。
業務フローの標準化と「属人化」の解消
業務の属人化は、事務所の成長を妨げる大きな壁です。
Google Workspaceは、個人の頭の中にあるノウハウを事務所全体の共有財産に変えるための強力なツールセットです。
Googleサイト
Googleサイトで「事務所内ポータルサイト」を構築する専門知識がなくても、驚くほど簡単に見やすいウェブサイトが作成できる「Googleサイト」を使い、事務所専用のナレッジベース(ポータルサイト)を構築します。
これは、属人化解消の切り札です。
- 業務マニュアルの集約: Googleドキュメントで作成した「新規入社手続きマニュアル」「育児休業手続きフロー」などの各種マニュアルを、このサイトに埋め込みます。
- チェックリストの共有: Googleスプレッドシートで作成した「給与計算ダブルチェックリスト」や「新規顧問契約時確認事項」などを埋め込みます。
- 情報のハブ化: 顧問先へのメールテンプレート集、料金表、法改正情報へのリンクなど、業務に必要なあらゆる情報をこのサイトに集約します。このポータルサイトがあることで、新入職員は先輩の手を止めることなく自ら学ぶことができ、教育コストが大幅に削減されます。また、事務所全体の業務品質が標準化され、誰が担当しても一定のクオリティを担保できるようになります。
Googleスプレッドシート
Googleスプレッドシートで「案件進捗管理表」を作成・共有する「どの顧問先の、どの手続きが、今、誰が担当していて、どういう状況なのか」を一覧できる共有のスプレッドシートを作成します。
列には「顧問先名」「手続き内容」「担当者」「ステータス(未着手・対応中・完了)」「期限」などを設定します。
この一枚のシートを見るだけで、所長は事務所全体の業務の進捗状況をリアルタイムで把握でき、特定のスタッフに業務が集中している場合は、適切な業務配分を行うことができます。
これにより、業務のボトルネックが可視化され、組織としての生産性向上につながります。
Googleドキュメント
Googleドキュメントの「コメント・提案機能」でレビューを効率化する就業規則のレビューや報告書の確認など、複数人でのチェックが必要な作業は、すべてGoogleドキュメントのコメント機能や提案機能を使います。
これにより、「誰が、いつ、どのような意図で修正したのか」という履歴がすべて記録として残ります。
これは、単なる効率化だけでなく、ベテランの知見を若手に伝える貴重なOJTの機会にもなります。
コミュニケーションの活性化(所内・顧問先)
効率的で安全なコミュニケーションは、顧問先との信頼関係の基盤です。
Google Workspaceは、所内と顧問先、両方のコミュニケーションを劇的に改善します。
所内のコミュニケーション
Google Chatで意思決定をスピードアップ所内の連絡は、原則としてGoogle Chatを使用するルールを設けます。
これにより、メールボックスが重要な連絡(主に顧問先から)で埋め尽くされるのを防ぎ、迅速な意思決定を促進します 16。
顧問先とのファイル共有
顧問先とのファイル共有は、メールにファイルを添付するのではなく、Google Drive上のファイルへの「共有リンク」を送る方式に切り替えます。
これには以下のような大きなメリットがあります。
- セキュリティ: リンクに「閲覧者」「コメント可」「編集者」といった権限を設定できます。さらに、パスワードを設定したり、リンクの有効期限を設けたりすることも可能です。
- バージョン管理: 共有リンクは常に最新版のファイルに繋がります。顧問先が古いファイルを見てしまう、といったミスが起こりません。
- 大容量ファイル: メールでは送れないような大きなサイズの就業規則のデータや動画マニュアルなども、問題なく共有できます。
Googleフォームでデータ収集
Googleフォームでデータ収集を自動化する新入社員の情報収集や、助成金申請に必要なアンケートなど、顧問先から定型の情報を集める際には、Googleフォームを活用します。
フォームへの回答は、自動的にGoogleスプレッドシートに整理されて集計されます。
これにより、手作業での転記ミスがなくなり、データ収集にかかる時間が大幅に短縮されます。
これらの活用法は、単独でも効果を発揮しますが、真価はそれらが連携したときに発揮されます。
例えば、「Googleフォームで収集した新入社員情報を基に、Googleドキュメントのテンプレートを使って雇用契約書を作成し、その進捗をGoogleスプレッドシートで管理し、完成した書類の共有リンクをGmailで顧問先に送る」といった一連の流れが、すべてGoogle Workspace内で完結します。
これこそが、業務全体を最適化する「事務所のオペレーティングシステム」を構築するということです。
「セキュリティ」をGoogle Workspaceでどう守るか

顧問先の機密情報、特にマイナンバーのような特定個人情報を扱う社労士事務所にとって、セキュリティ対策は最重要課題です。
Google Workspaceは、世界トップクラスのセキュリティ基盤の上に構築されていますが、その機能を正しく設定し、運用するのは事務所自身の責任です。
ここでは、SRPⅡ認証の取得も視野に入れながら、Google Workspaceで堅牢なセキュリティ体制を築く方法を解説します。
Googleのセキュリティ基盤と事務所の役割
まず、Google Workspaceは、すべてのデータが保管時も通信時も暗号化され、ISO 27001などの国際的なセキュリティ認証にも準拠していることを理解しておくことが重要です。
この強固な基盤の上で、事務所がやるべきことは、主に以下の3つです。
- 2段階認証プロセス(2SV)を全所員に強制する:これは、パスワード(知っている情報)に加えて、スマートフォンやセキュリティキー(持っているもの)を使った認証を要求する仕組みです。アカウント乗っ取りに対する最も効果的な防御策であり、全スタッフに対して必須の設定とすべきです。
- アクセス権限の管理を徹底する:「必要最小限の権限」の原則を徹底します。Google Driveの共有設定を使いこなし、スタッフが自分の業務に直接関係のない情報にアクセスできないように、フォルダやファイルごとに細かく権限を設定します。例えば、経理担当者だけが請求関連のフォルダにアクセスできるようにする、といった設定です。
- 管理コンソールを使いこなす:Google Workspaceの管理者は、「管理コンソール」という司令塔にアクセスできます。ここから、ユーザーの追加や削除、パスワードのリセットはもちろん、「誰が、いつ、どのファイルにアクセスしたか」という監査ログの確認や、万が一スタッフがスマートフォンを紛失した際に、遠隔でデータを消去する(MDM機能)といった操作が可能です。
SRPⅡ認証の要求事項にGoogle Workspaceで対応する
SRPⅡ認証は、事務所が適切な安全管理措置を講じていることを証明するものです。
その要求事項は「組織的」「人的」「物理的」「技術的」の4つの側面に分かれています。
Google Workspaceは、これらの要求事項の多くに効果的に対応できます。
SRPⅡが求める安全管理措置 | Google Workspaceの対応機能・活用法 |
組織的安全管理措置 | ・Googleサイトでセキュリティポリシーや規程を策定し、全所員に周知徹底。 ・管理コンソールの監査ログで取扱状況を定期的に点検。 |
人的安全管理措置 | ・Google Meetで定期的なセキュリティ研修を実施(録画して新入社員教育にも活用)。 ・Googleフォームで秘密保持に関する誓約書を電子的に回収・管理。 |
物理的安全管理措置 | ・Google Driveへのデータ集約で紙媒体を削減し、書類の盗難 ・紛失リスクを低減。・モバイルデバイス管理(MDM)機能で、紛失したスマホのデータを遠隔消去。 |
技術的安全管理措置 | ・2段階認証プロセスの強制適用で不正アクセスを防止。 ・共有ドライブとアクセス権限設定でアクセス制御を徹底。 ・Vault(上位プラン)でデータの保持と電子情報開示に対応。 |
このように、Google Workspaceは単に安全なツールであるだけでなく、SRPⅡ認証が求める「セキュリティを管理・運用する仕組み」そのものを構築するためのプラットフォームとなります。
例えば、「定期的な研修の実施」という人的措置は、Google Meetで研修会を開き、その録画をGoogleサイトのポータルに掲載することで、いつでも誰でも確認できる状態を作れます。
これは、事務所に「セキュリティ文化」を根付かせるための大きな一歩です。
導入へのステップと他ツールとの比較
「Google Workspaceの魅力はわかったけれど、どうやって導入すればいいのか?」「他のツールと比べてどうなのか?」という疑問にお答えします。
ここでは、スムーズな導入計画と、他の代表的なツールとの比較を解説します。
無理なく始めるための段階的導入プラン
全機能を一度に導入しようとすると、現場が混乱し、かえって非効率になる可能性があります。
以下の3段階で、徐々に慣れていくことをお勧めします。
- フェーズ1(基盤構築期): まずは全所員でGmailとGoogleカレンダーの利用を開始します。独自ドメインのメールに切り替え、共有カレンダーで予定を管理することから始めましょう。
- フェーズ2(協業体験期): 次に、一つの新しいプロジェクトや特定の顧問先の業務で、Google DriveとGoogleドキュメント、スプレッドシートを使ってみます。少人数のチームで共同編集の便利さを体験することが目的です。
- フェーズ3(全面展開期): 既存のファイルを本格的に共有ドライブへ移行し、Googleサイトでの事務所内ポータルサイトの構築に着手します。この段階で、事務所の業務基盤が大きく変わります。
最適なプランの選び方
Google Workspaceにはいくつかの料金プランがありますが、多くの社労士事務所にとって最適なのは「Business Standard」プランです。
理由は、ユーザー一人あたり2TBという十分なストレージ容量と、Google Meetの録画機能が利用できる点です。
将来的に、より高度なセキュリティ機能やデータ保持機能(Vault)が必要になった場合は、「Business Plus」へのアップグレードも可能です。
他のツールとの賢い使い分け
Google Workspaceは万能ではありません。
他のツールと比較し、それぞれの強みを理解して組み合わせることが、最も賢い選択です。
kintoneとの比較
kintoneは、業務に合わせて独自のデータベースアプリケーションを構築できるプラットフォームです。
例えば、「複雑な案件管理システム」や「顧問先ごとの詳細なデータベース」をゼロから作りたい場合に非常に強力です。
一方、Google Workspaceは、日々のコミュニケーションや文書作成といった、より汎用的な業務の基盤を支えます。
kintoneが「特注の業務システム」なら、Google Workspaceは「事務所全体のインフラ」と考えると分かりやすいでしょう。
両者は連携させることも可能です。
専門特化型ソフト(社労夢など)との比較
給与計算や社会保険の電子申請に特化した「社労夢」のような専門ソフトは、その分野において圧倒的な効率性と正確性を誇ります。
これらのソフトは、定型的なコア業務を完璧にこなすためのものです。
Google Workspaceは、それ以外の非定型的な業務、例えば顧問先とのコミュニケーション、所内での情報共有、報告書の作成、オンラインでの面談などを担います。
理想的なのは、専門特化型ソフトでコア業務をこなし、Google Workspaceでそれ以外のすべての業務を支える、という運用です。
Google Workspace | kintone | 専門特化型ソフト (例: 社労夢) | |
主な役割 | コミュニケーションとコラボレーションの基盤 | 業務に合わせたカスタムアプリ開発プラットフォーム | 特定業務(給与計算、電子申請)の実行 |
強み | ツール間のシームレスな連携、直感的な操作性、共同編集機能 | 自由度の高いカスタマイズ性、業務プロセスの自動化 | 業界特有の業務への完全対応、法改正への迅速な追従 |
導入の勘所 | 全所的な情報共有基盤を低コストで構築したい事務所 | 独自の案件管理や顧客管理システムを構築したい事務所 | 給与計算や社会保険手続きのアウトソーシングを主軸とする事務所 |
IT知識 | ほとんど不要 | 基本的なデータベースの理解があると望ましい | 不要 |
まとめ

本記事では、社労士事務所がGoogle Workspaceを使って課題を解決する方法を説明させて頂きました。
デジタル化された安全な環境で、チーム全体が情報を共有し、スムーズに協業できるということが、Google Workspaceのメリットです。
それは単に業務が速くなる、楽になるという話だけではありません。
ペーパーレス化によって生まれた時間で、より付加価値の高いコンサルティング業務に集中できるようになる。
標準化された業務フローによって、スタッフは安心して働くことができ、事務所全体のサービス品質が向上する。
そして、堅牢なセキュリティ体制は、顧問先からの揺るぎない信頼につながる。
Google Workspaceの導入は、単なるIT投資ではなく、効果的な投資の一つと言えると思います。
この記事が社労士の先生の事務所の効率化のために、少しでも参考になりましたら幸いです。